結晶が大きくなり、また過飽和度や気圧が高くなって水蒸気拡散の影響が強まると、 わずかな突出部が周囲より多くの水蒸気を受け取り、さらに突出する—— この正のフィードバックが暴走し始め、六角板の角から枝が伸びます。 これが平板型結晶の主枝形成の主要因の一つです。ただし、枝分かれの開始寸法に一つの普遍値はなく、 氷では面ごとの付着動力学とファセット化も同時に働きます。
この«段階»という並びについて。本サイトの「段階」は、構造と機構を理解しやすく並べた教育上の整理です。すべての雪結晶がこの順序ですべての形を通過するわけではありません。
操作方法:モデルはドラッグで自由に回転できます(スマートフォンでは1本指でなぞる)。「真上から」ボタンで顕微鏡写真と同じ視点、「真横から」で厚みや層構造が分かる視点になります。スライダーのあるモデルは、形を決めている量そのものを動かせます。
薄い六角板が育つと、六角形の角やわずかな突出部には、 平らな辺の中央より水蒸気が届きやすくなります。
少し突出する → 水蒸気の流束が増える → さらに速く伸びる → もっと突出する
この輪が回り始めると、突出はもう止まりません。 6つの角が同時にこの状態に入るので、6本の枝が同時に伸びます。
ここで2つの用語を区別します。ファセット上で表面の濃度・過飽和度が 面中央より縁側ほど高くなる空間的な不均一はベルグ効果と呼ばれます。 一方、小さな突出が多くの供給を受けて時間とともに増幅される動的な不安定性が Mullins–Sekerka 型の拡散不安定性です。両者は関連しますが、同じ現象の別名ではありません。 金属や溶液の樹枝状晶とも、拡散律速の移動境界問題という共通性があります—— ただし雪では、強いファセット化と異方的な付着動力学が同時に重要です。
六回対称を保つよう拘束した二次元領域で、結晶まわりの定常拡散場を解き、局所流束の大きい縁を前進させる定性的モデルです(青いほど濃く、結晶の近くは枯渇して薄い。線は等値線)。橙色の矢印は表面へ向かうモデル内の拡散流束で、角で流束が大きくなる幾何学的な縁効果を示します。このモデルは表面濃度を一様に固定しているため、ベルグ効果に伴う表面濃度の場所による違いそのものは計算していません。「少し成長させる」で角への流束集中が主枝状の突出へ増幅されます——六本という対称性はモデルに組み込まれており、無方向の円盤から六方向が自発的に選ばれる過程の再現ではありません。
拡散不安定性そのものには方向の好みがありません。 円盤が不安定になるだけなら、枝は任意の方向へ出てもよいはずです。 方向を選んでいるのは結晶格子です。
−15℃付近の平板型結晶では、氷Ih の基底面内にある六方対称な a 軸方向が 主枝の優先方向になります。隣り合う a 軸方向は 60° ずつ離れているため、 六本の主枝が六回対称に配置されます。拡散不安定性は、格子が用意したこの6方向の候補を増幅します。
水分子の局所的な四面体配位(109.47°)は氷Ih 格子の基礎ですが、 109.47° から枝間の 60° が直接得られるわけではありません。 109.47° は分子まわりの局所配位、60° は基底面内の結晶学的対称性という、異なる階層の角度です。 なお −5℃付近の魚骨型のように、先端の成長方向が固定した結晶軸ではなく 過飽和度で変わる場合もあります。
主枝が出る寸法は条件依存ですが、 結晶全体が 100〜300 µm 級になるころに6方向の突出が明瞭になる例が多く見られます。
六角板から角が張り出し、扇状(セクタープレート)・幅広枝状を経て 樹枝状へ移る成長例があります。ただしグローバル分類の P2(扇状)と P3(樹枝)は 形態分類であり、すべての樹枝状結晶が観察可能な扇状段階を必ず通過するという意味ではありません。 上のモデルを数回押した段階は、扇状・幅広枝状の外形に似た中間形を示しますが、 ファセット化を入れていないため P2 結晶の再現ではありません—— 枝が生える仕組みそのものを見るための装置です。
ちなみに分類の解説によれば、«樹枝六花»と呼ばれる結晶の多くは、 厳密には角板の先端に樹枝が付いた P4c: 角板付樹枝などに当たるそうです (2012年分類論文)——中心を拡大すると小さな六角板が見つかることがよくあります。
この段階の «厚み» を忘れないこと。 六花の写真は真上から撮られるため平面的に見えますが、枝は板として厚みを持っています。 −15℃付近の薄板では、縁が µm 級まで鋭くなる観測があり(Libbrecht 2011, arXiv:1111.2786)、 厚さは差し渡しの何十分の一にもなり得ます。ただしこれは条件依存の例であり、 すべての樹枝六花に共通する厚さの値はありません。 上のモデルで「真横から」を押すと、この扁平さが確認できます。
同じ温度、同じ過飽和度、同じ気圧で水蒸気から成長するなら、 天然雪と人工雪は基本的に同じ成長物理に従います。 「人工雪は形が違う」という比較でしばしば見られる差の主因は、 天然か人工かではなく、比べているものが違うことです——
水蒸気からの気相成長 と 過冷却した液体水の中での液相成長
後者(過冷却水中で成長する氷円盤)は、成長相と主要な輸送過程が異なります—— 周囲に水分子が液体として豊富にあるため、成長は水蒸気拡散ではなく 凝固の潜熱をどう逃がすか(熱拡散)に強く支配されます。 ただし後者も、拡散律速の凝固界面が形態不安定化するという広い枠組みでは関連しており、 「まったく別系統」と切り離すのは強すぎます。 寸法を直接比べて「天然雪のほうが小さい」と結論してはいけません (以前ここに載せていた氷円盤の寸法値は、一次出典を特定できないため撤去しました)。
| 量 | 安全に言えること |
|---|---|
| 主枝の開始寸法 | 普遍値なし。過飽和度・気圧・温度・付着動力学に依存 |
| 平板型樹枝の枝方向 | −15℃付近では a 軸方向。隣接方向は 60° |
| P3 樹枝状結晶の典型径 | 平均 1〜3 mm。10 mm 以上の例もある(Kikuchi ほか 2013) |
| 薄板の厚さ | 条件依存。縁が µm 級まで鋭くなる観測あり(Libbrecht 2011) |
初版:2026-08-05 以前(正確な作成日は記録なし——判明し次第記入)|最終更新:2026-08-12