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段階 5 / 12初期氷晶

雲の中で氷が生まれる瞬間は、まだ «雪の結晶» の形をしていません。 凍ったばかりの粒は丸く、そこから面が少しずつ現れて、 1〜5 µm の微小な氷晶になります。

このページの内容

  1. どうやって氷が生まれるか
  2. ドロクスタル
  3. この段階では板か柱かはまだ分からない
  4. 小さな結晶の図鑑——G 初期結晶群
  5. 空の光でわかる——暈という証拠
  6. 結晶の中心に残る «核»
  7. 積層乱れ——のちの «刺さった枝» の伏線
  8. この段階の数値

操作方法:モデルはドラッグで自由に回転できます(スマートフォンでは1本指でなぞる)。「真上から」ボタンで顕微鏡写真と同じ視点、「真横から」で厚みや層構造が分かる視点になります。スライダーのあるモデルは、形を決めている量そのものを動かせます。

どうやって氷が生まれるか

雲の中の水滴は、0 ℃を下回っても簡単には凍りません。 純粋な水滴は −38 ℃付近まで液体のまま存在できます(過冷却)。 実際の雲で −38 ℃より高い温度で氷ができるのは、 鉱物のダスト、細菌、火山灰などの微粒子が氷核として働くからです。

できかたは主に2通りあります。

ドロクスタル

凍ったばかりの粒は、元の水滴の丸みを残しています。 そこから基底面・柱面が少しずつ現れ、丸みと平面が同居した多面体になります。 この形をドロクスタルと呼びます (droplet + crystal からの造語です)。 なお、やや大きな凍結小雨滴(直径 200 µm 以下)では、表面から スピキュル(針状突起)やスパイクと呼ばれる突起が出ることがあります(2012年分類論文)。

下のモデルは、球と多面体のあいだを幾何学的に補間して面の現れ方を示す模式で、 凍結・成長の物理過程を計算したものではありません。

ドロクスタルには、基底面・柱面のほかに、 その中間の角度を向いたピラミッド面が現れることがあります。 上のモデルのスライダーを動かすと、球から多面体、そして短い六角柱へと 面が育っていく様子をたどれます。

初期氷晶。凍ったばかりの丸い粒から、基底面・柱面・ピラミッド面が現れて多面体になります。

この段階では板か柱かはまだ分からない

1〜5 µm の段階では、基底面と柱面の成長速度の差はまだ外形として現れていません。 差そのものは最初からあるのですが、 その差が積み重なって目に見える縦横比になるには、もう少し育つ必要があります。

ここは誤解しやすいところです。 「ある大きさになると板か柱かが決まる」のではありません。 面ごとの速度差は最初から働いていて、それが積分されて外形として見えてくるだけです。 基本晶癖を決める中心的な条件は結晶のサイズではなく、 気温、氷に対する過飽和度、そして基底面・柱面の付着動力学です。

小さな結晶の図鑑——G 初期結晶群

この段階の小さな結晶たちにも、分類はちゃんと名前を用意しています。 G 初期結晶群——分類の定義では0.1 mm 未満の微小氷晶で、 薄い雪雲では十分に育ちきれず、この小ささのまま降ってきます。 よく晴れた厳寒の朝にきらめくダイヤモンドダストもこの仲間です。 小さすぎて平地では単独では見つけにくく、 広幅六花などの大きな結晶に付着した形で観察された例があります (藤野・WHITE ICE の長期観察)。

顔ぶれは、柱の芽(G1a 角柱氷晶/G1b 扁平角柱)、板の芽(G2a 角板氷晶/ G2b 非六角板=六角形の一部の辺が無い五角形・四角形の芽/G2c 六花氷晶)、 そしてG3 多面体氷晶——基底面・柱面に加えて ピラミッド面を持つ結晶です。 G3a 十四面体(基底2+ピラミッド12)と G3b 二十面体(基底2+柱面6+ピラミッド12)。 ドロクスタルの節で見た«丸い粒に面が現れる»途中の顔が、そのまま名前になっています。 最後の G4 多結晶氷晶は向きの違う小さな結晶の寄り集まり—— 第10段階で出会う砲弾集合・交差角板・放射樹枝の«種»です。

G 初期結晶群の図鑑。灰色のリングが 0.1 mm(分類の上限)の目安です(寸法の比率は模式)。G3 のオレンジ色がピラミッド面——傾きは c/a=1.629 から計算した 62.0° で描いています。なかでも G3 は天然では滅多に見られない稀な顔ぶれです(実物写真はフェアバンクスで撮影されています——次の節参照:2012年分類論文)。

空の光でわかる——暈という証拠

0.1 mm に満たない結晶は拾えなくても、空を見れば居場所が分かります。 氷晶の雲(巻雲・巻層雲)が太陽のまわりに作る光の輪——暈(かさ/ハロ)です。 暈の半径は、光が氷の楔(プリズム)を通るときの最小偏角で決まります。 ふつうの六角柱・六角板の楔は、柱面どうしの 60°と基底面↔柱面の 90°。 氷の屈折率 n≈1.31 を入れると最小偏角は約 22°46°—— おなじみの内暈・外暈です。柱の芽(G1a)ならタンジェントアーク、 板の芽(G2a)なら幻日や環天頂アークと、結晶の形が光の形を決めます。

そしてピラミッド面(G3)が加わると、楔の品ぞろえが一気に増えます。 傾き 62° のピラミッド面と、柱面・基底面・別のピラミッド面との組み合わせで、 楔は 28・52.4・56・62・63.8・80.2°—— 最小偏角はそれぞれ 9・18・20・23・24・35°。 ふつうの 22°・46° とは違う特異半径(odd-radius)の暈の一族です(atoptics の標準セット)。 暈の研究者の一部には «多くの六角氷晶は目に見えないほど小さなピラミッド面を持つのではないか» という仮説を述べる人もいます(検証された事実ではありません)。 G3 は自然界ではきわめて稀ですが、実物の顕微鏡写真がフェアバンクス(アラスカ)で 撮影されており(Ohtake 1970)、分類の図版にも使われています(Kikuchi ほか 2013)。 そして空には確かに、この形でしか説明しにくい光が出るのです。 球形の凍結微水滴から20面体構造の氷晶が成長する過程も報告されています (山下 1974; 1979——2012年分類論文の記述による)。

楔の角度と最小偏角。プリセットはふつうの結晶の楔(60°・90°)とピラミッド面の楔6種。スライダーで自由に動かすと、約99.6°を超えると、どの入射角でも出口の面で全反射になり光が通り抜けられなくなるのも確かめられます。δ = 2·asin(n·sin(A/2)) − A、n=1.31 固定の幾何光学です(波長による分散は扱いません)。

結晶の中心に残る «核»

顕微鏡写真で、雪結晶の中心に丸い構造が見えることがあります。 これは多くの場合、出発点になった凍結雲粒やドロクスタルです。 10 µm 級から数十 µm のことが多く、その周りに枝が伸びています。

結晶の «丸いもの» は一種類ではないので、区別が必要です。

見かけ正体の候補代表スケール
表面に載る球状粒凍結した過冷却雲粒10〜100 µm
結晶中心の丸い核凍結雲粒・ドロクスタル10 µm〜数十 µm
結晶内部の円形模様閉じた空気ポケット数〜数十 µm
面上の暗い輪・溝開いたくぼみ、溝、屈折像数〜数十 µm

焦点スタック撮影では、「結晶面より手前に盛り上がるか」「内部で一度輪郭が消えるか」 「穴の底まで見えるか」を調べることで、候補を絞り込めます。

積層乱れ——のちの «刺さった枝» の伏線

過冷却雲粒が凍るとき、内部には立方晶的な積み方が混じることがあります (積層乱れ氷。2010年代に確立しました)。 立方晶の {111} 面は、六方晶の基底面と結晶学的に等価です。

この «種» の内部に向きの違う領域(ドメイン)ができると、 それぞれのドメインが自分の面から枝を伸ばします。 その結果、枝どうしの角度が 70.53°—— 四面体角 109.47° の補角——に量子化されます。 実測でも c 軸間の角度は約 70° にピークを持ちます (Kobayashi & Furukawa 1978、上田・菊地 1976)。 第10段階で扱う立体樹枝の «刺さり方» は、ここに起源があります。

この段階の数値

備考
初期氷晶の大きさ1〜5 µm代表的なオーダー
純水が自発的に凍る温度約 −38 ℃均一核形成の目安
凍結雲粒の直径10〜100 µm雲粒一般の大きさ
氷の屈折率 n約 1.31可視光。暈の角度を決める
ふつうの暈約 22°/約 46°楔 60°・90° の最小偏角(21.8°・45.7°)
ピラミッド面 (10-11) の傾き62.0°基底面から。atan((2/√3)·c/a)、c/a=1.629
特異半径(odd-radius)の暈9・18・20・23・24・35°楔 28・52.4・56・62・63.8・80.2°(atoptics)
積層乱れによる枝の角度70.53°= 180° − 109.47°、実測ピークは約 70°

初版:2026-08-05 以前(正確な作成日は記録なし——判明し次第記入)|最終更新:2026-08-12