段階1〜3の読み方。この3ページは、実際の核形成を一分子ずつ時間順に再現したものではなく、水分子 → 氷に特徴的な局所構造 → 三次元格子という構造の階層を、理解しやすい順に並べたものです。実際の氷核生成には多数の分子が関与し、形成初期には六方積層と立方積層が混在する積層不整氷 Isd が生じることもあります。このサイトでは雪結晶の基準構造として理想的な氷Ihを扱います。
六員環が三次元的に積み重なると、六方晶の氷(氷Ih)になります。 ここで初めて、雪結晶の外形を決めることになる2種類の面—— 基底面と柱面——が現れます。
操作方法:モデルはドラッグで自由に回転できます(スマートフォンでは1本指でなぞる)。「真上から」ボタンで顕微鏡写真と同じ視点、「真横から」で厚みや層構造が分かる視点になります。スライダーのあるモデルは、形を決めている量そのものを動かせます。
氷Ih は六方晶で、格子定数は a = 4.51 Å、c = 7.36 Å です。 この2つの数は独立ではありません。 すべての結合が 2.76 Å で、すべての結合角が 109.47° だとすると、
a = 2.76 × (2√2/3) × √3 = 4.507 Å c = 2.76 × 8/3 = 7.360 Å
となります。これは理想模型の導出値です。 実際の氷Ihの格子定数は温度で変わり、250 K 付近の実験値の一例は a = 4.518 Å(差 約0.24%)、c = 7.356 Å(差 約0.05%)、c/a ≈ 1.628。 理想模型の c/a = √(8/3) = 1.633 は理想ウルツ鉱型四面体ネットワークの比で、 実測とはわずかにずれます(球の六方最密充填ではありません——氷の酸素格子は空隙の大きい4配位網です)。 つまり氷Ih の格子は、分子の四面体性だけでほぼ完全に決まっています。
氷Ihの結晶構造。{10-10} 柱面をもつ六角柱として切り出し、基底面(青)と柱面(橙)を色分けしています。「別の氷則配置を生成」は、氷の規則を満たす別の許容配置を数学的に作り直すボタンで、実際の水素の運動や熱平衡分布を再現するものではありません。
六角柱の上下のふたが基底面(ベーサル面)、 側面6枚が柱面(プリズム面)です。 上のモデルで「基底面・柱面」を選ぶと色分けされます。
| 面 | 位置 | 垂直な方向 | この面が速いと |
|---|---|---|---|
| 基底面(ベーサル面) | 六角柱の上下 | c 軸 | 縦に伸びる=柱状 |
| 柱面(プリズム面) | 六角柱の側面 | a 軸 | 横に広がる=板状 |
向きに注意。「基底面が速い」と板ではなく柱になります。 法線方向へ速く進む面は、隣接面との交線が動いて外形に露出する面積を失っていくので、最終的な形から消えていきます。 逆に、遅い面が大きく残ります。板状結晶とは「基底面が遅くて大きく残った結晶」のことです。
いす形の六員環でできたシートは、上下2枚で1組の二重層を作ります。 氷Ih では、この二重層が ABAB… の順で積み重なります(六方晶)。 二重層1枚の厚さが c/2 = 3.68 Å で、 これが後に「基底面のステップの高さ 0.37 nm」として登場します。
ここで大切な性質が1つあります。理想Ihの局所構造では、各分子は同じ二重層内の3個と、隣の層の1個へ四面体的に結ばれています——«横3本・縦1本»は向きをつかむための模式表現で(横の3本も実際には折れ曲がりを含みます)、二重層の内部では分子が3本の手で横につながり、 二重層と二重層の間は残り1本の縦の手だけでつながっています。 基底面に新しく1分子が降りてきても、結合できる相手は最初この縦の1本だけです。 このことが、あとで «二次元核の関門» として効いてきます。
酸素原子は格子の上にきれいに整列します。ところが水素の位置は決まっていません。 決まっているのは次の2つだけです。
この2条件を氷の規則(ベルナル・ファウラー則)といい、 これを満たす配置は膨大な数あります。 Pauling はその数を1分子あたり 3/2 と見積もり、 そこから残留エントロピー k ln(3/2) を導きました(実測と約1%で一致)。
上のモデルの「別の氷則配置を生成」ボタンを押すと、 氷の規則を満たしたまま水素の配置だけが総入れ替えされます。 酸素の骨組みはまったく動きません。 表示している「氷の規則の違反」件数は、押すたびにその場で数え直しています。
結晶の表面では、4本の手のうち何本かが結合の相手を失います。 相手のいない手には、突き出た水素(δ+)か 孤立電子対(δ−)のどちらかが顔を出します。 どちらが出るかは氷の規則の範囲でランダムなので、 表面のすぐ上には ± の入り混じったまだらな電場ができます。
このまだらのつくる細かい電場成分は、表面から離れるにつれて急速に弱まります(以前ここに載せていた減衰の具体値は、計算条件を示せないため撤回しました)。 そして統計的には δ+ と δ− がほぼ半々に出るため、 結晶に正味の電荷が生じるわけではありません。
| 量 | 値 | 備考 |
|---|---|---|
| 格子定数 a | 4.51 Å | 理想四面体からの計算値 4.507 Å |
| 格子定数 c | 7.36 Å | 計算値 7.360 Å |
| c / a(理想模型) | 1.6330 | = √(8/3)(理想ウルツ鉱型四面体ネットワーク) |
| c / a(実験値の一例) | 約 1.628 | a=4.518 Å・c=7.356 Å(250 K 付近)から |
| 二重層の厚さ | 3.68 Å | = c/2、基底面ステップの高さ |
| 残留エントロピー | k ln(3/2) | Pauling の近似、誤差約1% |
| «氷らしい»局所秩序 | 分子数個〜nm 尺度でも現れ得る | 安定核の寸法は温度・過飽和度・核の有無に依存し、普遍値なし |
初版:2026-08-05 以前(正確な作成日は記録なし——判明し次第記入)|最終更新:2026-08-12